マスターズ2010
2010年、最初のメジャー「マスターズ」が終りました。他のメジャーが毎年開催コースを変えているのに対して、マスター ズは開催時からジョージア州にある「オーガスタナショナルGC」で行われています。「オーガスタナショナルGC」は、「球聖・ボビー・ジョーンズ」と、ゴ ルフコース設計家「アリスター・マッケンジー」との設計によって1934年にオープン、各ホールに植物の名前がついているように、多くの植物の鮮やかな色 彩に恵まれています。芝の「緑」、水の「青」、バンカーの「白」が織りなす景色は、世界でもっとも美しいゴルフコースといわれています。“ホーガン・ブ リッジ”のかかる12番ホールのほか、11番“ネルソン・ブリッジ”、1935年にジーン・サラゼンがアルバトロスを達成した15番ホール“サラゼンブ リッジ”等、偉大なゴルファーの名がついた美しい橋も有名です。
ジーン・サラゼンのアルバトロスは、マスターズ史上に残る、最高の名場面として知られ、70年以上経った現在も語り継がれている偉業です。1920年代か ら1930年代にかけて活躍したサラゼンは、プロゴルファーとして史上初の「キャリア・グランドスラム」を達成した名選手でした。また「サンドウェッジ」 の発明者としても知られています。晩年には彼の名前を冠した「ジーン・サラゼン・ジュンクラシック」のホストとして毎年日本を訪れていました。
オーガスタナショナルGCは、10月半ばから4月上旬までの期間、つまり冬の間だけオープンしています。マスターズが4月に開催されるのも、こうしたオー ガスタの特徴のためです。オーガスタナショナルGCは非常に格式の高いゴルフクラブで、メンバー同伴でなければプレーできません。またメンバーになるのも 至難の技だそうです。2002年に一人の女性メンバーもいないことを問題視した女性団体が、オーガスタナショナルGCに抗議し、また不買運動などを掲げて マスターズのスポンサーなどに、圧力をかけたという騒動がありましたが、オーガスタナショナルGCは、一切の要求を拒絶しクラブの独立性を守ったことがあ ります。
出場選手は前年度、世界各地のツアーでの賞金ランキング上位者や、前年と同年の世界ランキング50位以内となっています。当然、メジャータイトル優勝者も 参加し、招待資格を満たす名手(マスター)しか出場できないことから「マスターズ」は“ゴルフの祭典”として選手達から、最も敬愛されています。
マスターズ史上最多優勝“帝王”ジャック・ニクラウスの6回ですが、特に1986年の大逆転優勝は、マスターズの長い歴史の中でも、最高にエキサイティン グな幕切れでした。ちなみに、そのときニクラウスと優勝を争って敗れたのはグレッグ・ノーマンで、翌年の1987年にはラリー・マイズに恐ろしく難易度の 高い場所から、奇跡のチップインを決められプレーオフで敗退するなど、何度も何度も優勝に手が届きそうになりながら、そのたびにオーガスタの魔女にそっぽ を向かれてしまいました。
タイガーやニクラウスなどの成績からも、ロングヒッター有利といわれることの多いマスターズですが、実際には、ホセ・マリア・オラサバル(2勝)ニック・ ファルド(3勝)、ベン・クレンショー(2勝)ベルンハルト・ランガー(2勝)などそれほど飛距離の出ない選手も複数回の優勝を記録しています。
コース攻略においても、経験が必要とされており、非常に硬く、スピードも非常に速く設定されたグリーンは、フェアウェイ同様の強烈な起伏と相まって、予測 もつかないほどボールが曲がり、難易度が高く、極めて繊細なタッチが要求されます。「オーガスタ」のグリーンは世界のトッププロゴルファーから“ガラスの グリーン”と呼ばれています。
またコースに吹く風も特徴的で、くるくる変わる風向きを読んで、決断しなければならないといわれています。12番ホール「Golden Bell」は155ヤードの短いショートホールで、トッププロならばバーディーチャンスにつけられる距離ですが、風向きが一瞬にして変わる強風が吹くこと で有名です。池越えで、奥行きの浅いグリーンに乗せるのは至難の業で、世界でもっとも難しいパー3のひとつに数えられるほどです。
この12番を含む11番ホールから13番ホールまでは、池に向かって打つ難易度の高いショットが要求されるため、打ったあと神に祈るような気持ちになるこ とから「アーメンコーナー」と呼ばれています。13番ホール「Azalea」は、セカンドショットを池に落とす確率が高いのですが、イーグルも多いホール でもあり、優勝の行方を左右するキーホールになっています。
ガラスのグリーン”の難しさはもちろん、強風やコース自体の難しさ、パトロンと呼ばれる大観衆による独特の雰囲気、毎年ドラマチックな出来事の起こるオー ガスタナショナルGCには“魔女が棲む”と言われています。オーガスタの魔女に愛されたものだけが、優勝者に与えられるグリーンジャケットを手にすること が出来るのです。
今年のマスターズの一番の話題は「不倫・愛人騒動」の主役、タイガー・ウッズの復帰でした。完全無欠でクリーンなイメージだったタイガーが、どのタイミン グで復帰するのか連日メディアを騒がしていましたが、謝罪会見ではメディアを制限し、コメントに対する質問もなしという異例のスタイルでやり過ごし、彼の 周囲の目算では「謝罪して騒動が終息に向かう、できれば3月に1、2試合出場してマスターズを目指す」というものだったのでは、しかし一方的な謝罪会見に 対するメディアの反発が強かったのも事実で、結局は、メディアや野次馬が暴走できないマスターズが、復帰に最適な舞台となったのでしょう。
何故なら、マスターズは通常のトーナメントと違って、実績のない媒体には新たにプレス許可を出さないため、ゴシップ、芸能レポーターなどが入りこむことは ありません。また、ギャラリーも、ダフ屋から1500ドル以上のチケットを購入する以外、過去30年以上前から購入しているようなギャラリーが大半です。 マスターズを楽しむ、ソフィスティケートされたギャラリーがほとんどで、酔った勢いでヤジを飛ばす者は、まずいないのです。
「タイガーは性依存症施設でリハビリ」というニュースを聞いたとき、復帰は思ったよりも早いだろうと感じました。スキャンダルではなく「性依存症」という病気でくくることで、終結させようとしているのは、あまり紳士的ではありませんね。
出場2度目の石川の初日は、硬さが見られたものの、パープレーにまとめ32位と上々のスタートを切りました。2日目はシビアなピンポジションに加えてグ リーンの速さと風の勢いも増し、非常にタフなコンディションでした。そんな中でも13番のパー5でバーディーを奪ったところで通算スコアを1オーバーと健 闘していました。しかし予選通過を意識した途端、自分本来のゴルフを見失い、息もできないほどの鋭い緊張感の中にいるようでした。14番からパットが打ち 切れず、16番を終えて通算3オーバーと後のない状況に追い込まれた段階で、すでに頭は真っ白になっていたでしょう。「自分のゴルフを信じ切れずにその場 その場で対応しようとしたことがいけなかった。最後の方は何をどう考えたらいいのか分からなくて、体もすごく燃えるように熱くて、息もしにくかった」と 語っていました。
予選通過という現実的な目標が、石川の魅力である積極的な攻めの姿勢にブレーキをかけたのです。涙を流したのは、1打届かず予選落ちしたことではなく、1年間の歳月をかけて磨き上げた「石川のゴルフ」を土壇場で貫けなかった心の弱さが悔しかったのでしょう。
「今度は優勝争いすることを目標にしたいですね。僕のレベルだからこそ、それぐらいの気持ちを持たないといけない」と次回への抱負を語りましたが、そもそも石川の挑戦は小学校の卒業文集に書いた「20歳でマスターズ優勝」という「夢」から始まっているのです。
来年も招待されたら、日本の試合と同じような「躍動感に満ちた攻めのゴルフ」を期待したいですね。


