石川遼・スイング改造
石川遼が米フロリダ州のイニスブルック・リゾートで行われたトランジションズ選手権に参加しました。
大会の1週間前に取り組み始めた新スイングでは不安定さを露呈し「すべてのショットで思い切りよく打てなかった」とインタビューに答えていました。
ぶっつけ本番で臨んだトーナメントでしたが、大会前日の練習でも、新スイングでは右に抜けたり、フックしたりと思い通りに打てず「何千球打ってもまだ違和 感はある。どうしても今までのアドレスに戻っちゃう。無意識にできるには、何万球も打たないといけない」とイライラからクラブを地面に叩きつけ、しまいに は「これだけ一生懸命取り組んでいるのに、思ったように体が動いてくれない」と涙目になっていたそうです。
石川を取材したゴルフライターは「自分の動作を確認してそろりそろりとアドレスに入り、右肩の下がった窮屈そうな姿勢から球をしゃくり上げるように打ち出 した。左右に体重移動してダイナミックに体を回していた以前の姿とはまるで別人。前回の試合からわずか2週間のうちに、石川のスイングはまったく異なるも のに変わっていた。」とリポートしています。
今回の渡米前に父・勝美氏が、岡本綾子やマーク・オメーラらを指導したことで知られるティーチングプロのマイク小西氏に石川のレッスンを依頼したようで す。勝美氏が同氏の著書「ゴルフボディーターンバイブル」を読み、一部を自らのスイング理論にも取り入れていたこともありレッスンすることになったようで す。
2月の米ツアーデビュー戦で海外選手の鋭いスイングを目の当たりにし「今の自分のスイングには満足していなかった」という石川も素直に改造を受け入れ、ドライバー、アイアンだけでなくパッティングの構えも新スイングに即したものに変わっていました。
マイク小西氏のスイング理論が、他のスイング理論と異なっている点はアドレスのポスチャーです。右肩を下げて、背中からお尻にかけてかなりの角度をつけて、お尻を突き出すような形で構えます。
「右肩を下げた形は、高い弾道を生み出す際、高いポイントにターゲットを設定し、打ち出し角度に対して、顔を左上方へ向けながら眺めると自然にできるやや右肩下がりの状態で、スイング軸を右に傾けたアドレスから作る理論」という説明がなされていました。
マイク小西氏は「骨格」とりわけ骨盤や股関節の向きや角度を重要視しています。股関節から前傾することで、それ以上前傾できない位置まで前傾すると、骨盤 は45度まで前傾することになります。左肩を上げて右肩を下げた状態で、両肩を結んだラインと右腕を90度にセットした腕ポジションが、小西理論ポス チャーの重要なファクターです。
石川の右肩下がりの構えは、理想的な骨盤の向きを実現するためには肩のラインが右下がりになるべきという小西理論に基づいて「骨盤の位置→肩のライン」という順序で指導されたのでしょう。
小西氏が「日本のプロでは直せない」というレッスン書を発売したのは1992〜3年頃でした。小西理論を実践したとされる岡本綾子プロは、日本の女子選手 では初めて本格的にアメリカLPGAツアーに参戦し、1982年から1992年の間、計17大会で優勝しました。1987年には、アメリカ人以外で史上初 のLPGAツアー賞金女王にもなっています。
もう一人のマーク・オメーラにとって最高の年となったのは98年でした。年間メジャー2冠となるマスターズと全英オープンに優勝する活躍を見せたのです。
いずれにしても二人とも80年代から90年台に活躍したゴルファーです。当時のクラブはパーシモンヘッド・スチールシャフトの時代で、ドライバーの重さは100匁(375g)、長さは42.5インチの時代でした。
現在市販されているドライバーは290g~320gとなっており、長さも45~46インチのドライバーが大半です。クラブの進化と共にスイング理論も大きく変わりました。
小西理論の上半身のアドレスからの一連の動きは、パーシモン時代のスイング理論だと思っていたので、石川へのスイング指導は驚きでした。
80〜90年代、ドライバーのライ角はなんと!55度と現在のドライバーと比べると超フラットでした。
フェースのソール先端下部(リーディングエッジ)がシャフトの軸線より前に出ている距離をフェイスプログレッション(FP値)といいますが、当時の一般的なウッドは+20㎜以上の「あごが出た」ドライバーヘッドがほとんどでした。
パーシモン(柿の木)を職人が原木から削りだすため、当時はライ角もオーダーが可能だったはずですが、大体が職人任せで、あまり注文する人はいなかったように思います。
当時、ゴルフ場のプロ室には万力がおいてありました。ネックが木のため、シャフトの穴を空けなおしたりしてヘッドの見え方(ライ角・フェースアングル)を調整したり、ヘッドを削りなおすプロはたくさんいました。
メーカーも「クラブいじり」が好きなプロゴルファーに感想、意見を聞き、新製品開発の参考にしていました。
リーディングエッジ「あご」が前に出ているほど、インパクトのタイミングが早くなるためボールの打ち出し角は低く右にプッシュしやすいと言われていました。
上がり難いドライバーをアッパー気味にスイングするため、当時のトッププロでミズノ契約プロ「ジョニー・ミラー」に代表されるような「逆C型」のフィニッシュになるのが良いスイングとされていました。
小西理論は右足のつま先を閉じて、右肩を下げ、左手とクラブを真っ直ぐに伸ばした「逆K型」に構えますが、右サイドが窮屈になり長尺クラブ向きではありま せん。ダウンスイングでは右ひじを右わき腹の前に、リストコック(ため)を保ったまま振り下ろしていくスイングを勧めています。
「逆K型」はドライバーなどの長いクラブでは、バックスイングでシャフトが寝てヘッドが背中側に回りこむスイングになりやすい構えです。ダウンスイングで も左手が浮き、右に体重が残りやすいため、長尺クラブではダフリかプッシュスライスになりやすいスイングプレーンを作りやすい構えだと思います。
ボールに近く立つアイアンの場合「逆K型」のインパクトでの問題点は、ハンドファーストになり過ぎることです。
当時の3Iのライ角は58度で最近の3Iより2度程度フラットでした。また現在のアイアンはフェースアングルが大きく、フェースがかぶるモデルがほとんど で、「逆K型」からのインパクトではシャットフェースになりやすく、ナイスショットは結果として引っかかることになります。
左手の浮いたハンドファーストはインパクトロフトが安定しないため、フライヤーのような飛び過ぎを生みます。
飛びすぎの危険が多く、距離感が合わせにくいスイングで、タイガーもプロ入りしてから「逆Kシャット型」から「Y字オープン型」にアドレスを変えました。
テレビで石川のプレーを見ましたが、キャリーでグリーンをオーバーしたり、30ヤード以上もショートするなど、アイアンの距離感の乱れはひどいものでした。4日間プレーした73人のうちでパーオン率は最下位。フェアウエーキープ率も71位。73人中71位のスコアでした。
ロイヤルトロフィーでの石川のスイングは、右足が流れてトップでシャフトがクロスしているため、欧州の選手よりボールの打ち出しが高く、風の強い欧州ではでは通用しないスイングに感じまた。
小西理論では右足つま先を閉じて、トップでお尻を後方にずらさないよう右足をコイル状にねじるバックスイングから、左足の上に左股関節を固定し、右股関節を押し込むように下半身を使いす。
小西理論の下半身の動かし方は、現在の石川にとって取り組む必要があると思いますが、軸を右に傾けた「逆K型」は背中や腰を痛める危険性があり、この段階で取り組む必要があったのか疑問に思います。