109回全米オープン
109回全米オープンが行われたベスページ・ブラックコース(ニューヨーク)は、02年全米オープン開催以前から、難しい セッティングで知られています。スタートホールのフェンスには「ブラックコースは非常に難しいコースの為、上級者のみにオススメします」と警告文がありま す。普段からカートの使用は禁止され、ラフも膝の高さほどあり、サンドウェッジで出すのがやっとという厄介なセッティングで、シングルプレーヤーでも 100を越えることがあるという超難関コースです。02年全米オープン時にドライバーで打ってもフェアウェイに届かず、リンクスで良く見られる細く長いイ ネ科の植物・フェスキュー群に球が沈んでしまい「不公平すぎる」と大批判が出た10番などは、フェアウェイが40ヤードほどティグラウンドに近づけられて いました。
ヤーデージブックを見ると全長は7,426ヤードで7番・525ヤード、10番・508ヤード、そして12番・504ヤードと長いパー4が3ホール。特に 7番ホールの525ヤードは、去年の全米オープン、トーリーパインズ6番の515ヤードを超える全米オープン史上最長のパー4ホールで、パー5の5番ホー ル、517ヤードよりも長くなっています。12ホールあるパー4で、長さの面で一息付けるのは、2番ホールの389ヤードで、これが唯一の400ヤードよ り短いパー4でした。今年の全米オープン出場選手達は、一つどころか三つの500ヤードを超えるパー4に挑戦することになり、ショートヒッターには辛い戦 いでした。
リーマンショック以来の未曾有の不況下にあるニューヨーク、ドン底に落ちてしまったマンハッタンの人々は暗いムードから抜け出せずにいるわけで、暗いマン ハッタンからわずか30マイルに位置するベスページ・ブラック開催は、ニューヨーカーに元気を取り戻してもらい、ゴルフ人気を取り戻す絶好の機会と USGAは捉えたはずです。
しかしながら経済不況の影響で、全米オープンに参加する企業は大幅に減少していました。6/2日現在でUSGAが販売した全米オープンのホスピタリティテ ント(接待用企業テント)は42でした。参加した企業は、そのサイズや規模、テーブル数などを大幅に縮小し予算を節約していたようです。また1986年以 来、初めて前売りチケットが売れ残りました。
前回ベスページ・ブラックで全米オープンが行われた2002年は、9/11世界貿易センタービルへのテロ攻撃があった翌年でした。事件後最初に大きなス ポーツイベントがニューヨークで再開されたとして、USGAは78のホスピタリティテントを販売し、それがUSGAに9,260万ドルという記録的なトー ナメント収入をもたらす元となっていました。(TV放映料収入や他のトーナメント主催収入を含む)
タイガー・ウッズでさえ、「長い!」と言ったベスページ・ブラックコース。タイガーいわく、「僕が子供のころは420ヤードなんていえば、長いパー4だな あって感じだった。すごいよね。それぐらいゴルフというものが変化したってことだ」。そしてタイガーは、ベスページの18ホールの中でどのホールがキー ホールになるかと問われると、「特別にキーとなるホールはない。全米オープン開催コースともなれば、どのホールも難しいからね」とコメントしていました。
タイガーが言う「難しい」は「バーディを取るのは難しい」ということではないでしょうか。フェアウェイから、グリーンを捉え、いつも通りパットできれば、 「パーを取ることはさほど難しくはないよ」ということですが、大半の選手は「難しい」と言うとき、「パーを拾うことすら難しい」ということを意味している わけで、このあたりが普通の選手と王者との、レベルの差かもしれません。
今田竜二は残念ながら予選落ちしてしまいましたが、長い距離との戦いよりも「フェアウェイを捉えてさえいれば、グリーンは柔らかいから、ナイスショットさ え打てればバーディも狙える。ナイスショットさえ打てれば、ですよ。でも、一番難しいのはアプローチ。ソフトに出すとドスッと止まっちゃったり、妙に転 がったり。ランの計算が読み難くい」とベスページ・ブラックを分析していました。
ニューヨーカーを喜ばそうとしたのか?予選ラウンドのペアリングは笑えるものでした。
たとえば、ビジェイ・シンとジーブ・ミルカ・シンが同組だったり、エデュアルド・ロメロとアンドレス・ロメロが同組だったり、そうかと思えば、ソーレン・ケルドセン、ソーレン・ハンセン、ピーター・ハンソンが同組だったりと、まるで語呂合わせのようでした。
さらにメジャーに何度も勝ちかけて結局一度もメジャータイトルを獲得していない「負け組」までペアリングされていました。今年のマスターズでプレーオフに 敗れたばかりのケニー・ペリー、去年の全米オープンでタイガー・ウッズとのプレーオフに敗れたロッコ・メディエイト、過去幾度もメジャーで涙を飲んだト ム・レーマンと勝負弱い3人が勢揃い。
ちなみにタイガーは、昨年の全英オープンと全米プロを制したパドレイグ・ハリントン、そして今年のマスターズ覇者アンヘル・カブレラと「勝ち組」のラウンドでした。
5月のプレーヤーズ選手権ではドライバーショットが曲がり、苦しい表情を見せていたタイガーでしたが、6月のメモリアルでは最終日のフェアウエイキープ率 100%で大逆転優勝を果たしました。首位から4打差の7位タイからスタートし、あっという間にリーダーボードを駆け上がり、2位に1打差で優勝したタイ ガー。スランプ説を自ら吹き飛ばすような王者タイガーの猛チャージぶりに、ミュアフィールドビレッジに詰め寄せたファンたちは酔いしれていました。思い起 こしてみれば今季2月にツアー復帰し、わずか3戦目で優勝したのは“キング”アーノルド・パーマーの大会でした。そして今回、7戦目で優勝したのは“帝 王”ジャック・ニクラスの大会と、タイガー自身が憧れた「ゴルフ界の偉人」の冠大会での執念の勝利は感動ものです。
大逆転の一番の決め手になったのは、11番パー5でのチップインイーグルでした。2オン狙いの第2打がグリーン右奥にこぼれ、ボールはかなり深いラフの中 に沈んでしまいました。逆目+ダウンヒルのライで鋭角に打ち込むと、勢いがつきすぎ、グリーン上でどこまで転がるか計算が立ちにくい状況でした。タイガー は「できるだけフェースを開いてロフトを付け、できるだけ早くボールの下をくぐらせながら振り抜いた」と語りましたが、ボールを捉える瞬間、タイガーは右 手を離し、左手だけでクラブを振り抜いています。「とにかくロフトをつけておくことだけを考えていた」芝に負けてフェースが返らないように、右手が自然と 離れたのだそうです。「意図的に離したのか?」と問われると、「いや、勝手にそうなっただけ」ロブ風に大きなスイングをしたのは「とにかくボールをキャ リーさせてグリーンに届かせるため」で、そこから先は「カップに向かって、転がってくれれば、あとはパットでバーディを取る」というプランで「カップイン してくれたのは、ものすごいボーナスだったよ」とインタビューに応えていました。
ここぞという場面で、体が勝手に反応してメモリアルトーナメントで優勝を果たした王者タイガーでしたが、想像を絶するほどの「練習という準備」の賜物ではないでしょうか。


