スピン量規制
以前にこのコラムで取り上げたスピン量を制限について続報をお伝えします。
新しい制限は、グルーブ(溝)の断面面積及び、グルーブエッジの鋭さ(角度)に関し、2010年1月1日以降製造される(ドライバーとパターを除く)全て のクラブに対して適用されるものですが、このルールは上級プレーヤーによる競技会に限り、(競技条件として)2009年1月1日より導入されるようです。
同時にクラブメーカーとの5ヶ月の協議期間を経て、新ルールを一般ゴルファーに適用する日時を決定するとされています。またクラブを変更するための費用を考え、最低10年間の猶予期間を設けてあります。
またしてもR&AとUSGAの両協会の用具性能に関する規制強化が具体化してきました。しかしこの要因は、全てエリートクラスのプレーヤーによるプレーの 変化に起因したもので、特に競技をしない一般アマチュアにとっては、折角進化してきた用具による楽しみが奪われることにもなりかねません。
そろそろエリートプレーヤーの競技条件とアベレージゴルファーを分けたルールを考えないといけない時期に来ていると思います。
元USGAテクニカルディレクターのフランク・トーマス氏が、自己のホームページ、フランクリーゴルフ (http://www.franklygolf.com/)の一般読者対象に、現在USGAが提案している「アイアンフェースの溝(グルーブ)に関する 制限(サイズ、形状)案」の是非に関するアンケート結果が同ホームページ上に発表されたので紹介します。
(質問内容)トッププレーヤーのスピン性能に影響するのが理由で、U型グルーブを制限しようとしているUSGAの試みに関して、プロトーナメントのラフを伸ばしてスピンを減らすべきか、ルールを変えるべきか?
アンケートの回答の99%がラフを伸ばすべきとしています。ルールを変えるべきはわずか1%しかありませんでした。
(現在のUSGAの用具ルール制限方向に対するアンケート回答内容)
・91%の回答者:ゴルフボールの飛距離を25%減らすことに反対。
・99%の回答者:グルーブ変更に反対で、スピン対策にはラフを伸ばすべき。
・80%の回答者:最近採用された一連の用具ルールはゴルフの一番の関心事では無い。
・89%の回答者:簡素なルールの方が、ルールブックより多くの人に読まれ使われるだろう。
・86%の回答者:距離測定器具はゴルフルールで認められるべき。
89%のゴルファーはUSGAがアベレージゴルファー(一般ゴルファー)を代表していないと思っていると結んでいます。
アンケートに特記された一部の率直な感想コメント
・スピンを制限する前に、スピンのかけ方を教えてくれ。
・我々99%のゴルファーは、それ(ルール変更)によって傷つけられている。
・この問題は何年も前に解決されている。放っておけ。
・最後のアイアンセットを買ってしまった。ラフを伸ばしてくれ。
・全てのツアー競技のラフを伸ばす。飛ばし屋要注意・・・。
・芝を伸ばし、グルーブはそのままに!!!
・あ〜あ、次はヒッコリーシャフトに戻るのか?
・USGAはその使命を見失っている。
・馬鹿げている。時間と労力の無駄!!!
・ルール変更はショットガンで蟻を殺すようなもの。
・USGAはアマチュアの真実との接触を失った。
・まるでUSGAはネズミの糞を棒高跳びで飛び越しているようだ。
(フランク・トーマスのウェブサイト、フランクリーゴルフより)
多くが米国の読者らしくウィットと皮肉に富んだ表現のコメントですね、多勢はUSGAの提案に猛反対している様子が窺えます。
USGAがメーカーや関係者に通知していた5ヶ月間の協議期間はすでに終わっています。
クラブメーカーは、それぞれの契約プロ達に、将来に備えたより鈍いグルーブ設計のクラブをテストさせていますが「ツアープレーヤー達はこれに対応することが出来るが、何故このような変更が行われるのか本当に理解できていない」としています。
現在、クラブメーカーはまだUSGAにコメントを出し続けており、当然の事ながらUSGAの提案には反対意見が多く出されています。
クラブメーカーは、製造コストの増加、クラブの下取りの可能性、実施テスト無しでの規則強行の難しさなどを理由にあげています。
それに加えて、メーカーの間では、USGAが、鈍いグルーブが問題解決をするという直接の確たる証拠が無いままに、この規定を急ぐことに懸念をしめしています。
規定の中ではこの変更がなされた後の理想的とする結果が示されていないことが問題で「USGAは何を期待しているのか?どうしてそれが効くということがわかったのか?」との声も上がっています。
莫大な資金をつぎ込んで最新鋭の設備を持つテストセンターをセントアンドリュースに建設したR&A。レーダー追尾のローンチモニターやスイングロ ボットの動きを一秒500コマでとらえる高性能カメラと、生体科学によってスイング分析をする施設やインパクト研究所まであるそうです。
ルールの番人としてR&A とUSGAがその使命感とせっかく作った施設を活用するために、重箱の隅を楊枝でほじくるような用具規制を行うことは、アマチュアゴルファーの立場からみれば「そんなの関係ねー」ですね。
パターの科学
パッティングを科学的に解明したのがデーブ・ペルツです。徹底した実験による膨大なデータをまとめた「パッティングの科 学」(ベースボールマガジン社刊。1989年発行)では、パーフィーというロボットをモデルに使い、メカニカルにストロークすることが、カップインの確率 を高めると提唱していました。
ペルツ理論のポイントは目標線上をできる限りスクェアにヘッドを動かすための方法論でした。アドレスで肩のラインを目標線と平行にセットして、両手を肩の 真下に位置させたパッティングロボットに手首を固定した状態で、両腕と両肩で作られる三角形を崩さないようにストロークさせて見せたのです。この純粋な振 り子式打法が、もっとも再現性が高い理想的なパッティングだという理論です。
アドレスで手が肩より内側(体側)に近くセットすると、ヘッドはテークバックとフォローで目標線よりアウトサイドに動きやすく、フェースもクローズ_オープンとなりやすいと警告していました。
ボールの位置については、ストロークの最下点の5センチ前方が理想だと述べています「ボールを打ち出した時のバックスピン量が最少となり、スムーズな転が りが得られるから」というのがその理由で実践したツアープロもかなりいました。しかし高速度カメラが登場してインパクトの正体が解りだしてから、機械的な ストローク理論に変化が見えはじめてきたのです。振り子式のストロークであることに変わりはないのですが、手首を固定したままにするのではなく、ダウンか らインパクトにかけて、ほんの少し手首をリリースするようになってきました。
手首を完全に固定してしまうと、フィーリングが消えてしまう可能性が強いのです。パッティングには微妙な感覚が大切です。そのためにはハンマーで釘を打つように、少し手首を使ったほうがいいという理論が登場したのです。
「特にロングパットでは積極的に手首を使うようにすればストロークが小さくてすむ。手首を固めて長い距離を打とうとすると、どうしても体を揺さぶるようになり、軸がブレやすくなる」というものでした。
しかし「手首をリリースさせていい結果が得られるのは、ある程度のレベルになってから。ビギナーはまず手首を固定した振り子式ストロークを体得したほうが、上手くいくようです」という補足がついていました。
その後クロスハンドグリップが登場しパター理論に多大な影響を与えました。
クロスハンドグリップの最大の利点は(右打ちの場合)左手が右手に覆いかぶさるため右手首の角度が固定しやすく、余計な動きができないことと両肩を水平に構えられることでインパクトでも左肩が上がらず正確にボールの芯をとらえることができるのです。
パターをアドレスするとほとんどのゴルファーはハンドファーストになります。右手が下のノーマルグリップでは左腕の長さが余ってしまい、アドレスで左肩が上がってしまいます。
インパクトではさらに左肩が上がってしまうため、インパクトでは目標方向に対するカベを作ることになり、左腕の動きが詰まるためスムースにヘッドが出しにくくなります。
そのため右手のパンチが入りやすいのです。クロスハンドならハンドファ−ストにセットしても左腕は詰まらずに肩は水平なまま左右どちらの動きに対しても、ストロークが安定し正確なインパクトを作れます。
デーブ・ペルツは、1980年代に3ボールパターを考案し特許を取得しました。ツアーでもD・A・ワイブリングなどが使用し日本のツアーでも活躍しました。
このパターは後でUSGAが「シンプルなデザインでない」という理由で不適合クラブとなりました。現在では、奇抜と思われるデザインのものに関しては、試合で使用される前にメーカーは必ずUSGAに認可を取るようになりました。
2ボールパターを発売するときキャロウェイ社はまず、ボールデザインパターの特許を持つペルツに巨額のライセンス料を支払い2ボールパターのデザイン許諾を得ました。
そして『デーブペルツ2ボールパター』と名付ける予定でしたが、ペルツはこれを断わりました。ペルツにとっても更に名を上げるチャンスのはずでしたが、それだけでも彼は満足だと言うのです。
それは彼が提唱した理論が正しかった事が立証されたからに違いありません。
またペルツは自分の経験から2ボールパターは認可を得ることは出来ないと思っていたようで「それだけキャロウェイが努力して認可を得るに至ったということ」と語っています。
ペルツはストローク中に手首を使うことに否定的ですが、手首の動きを抑えるためには、シャフトは短めでグリップは太めがいいと述べています。またセンター シャフトパターとヒールシャフトパターの、打点と距離の関係などもレポートし、道具の研究も積極的に行っています。クロスハンドグリップで2ボールパター を使っている選手が多いのはペルツ理論の集大成といえる結果ではないでしょうか。
当初2ボールパターは、ヘッドのクラウン(上部)とソールそしてフェース以外の部分をくり抜いた設計を施されたもので、不適合の烙印を押されました。
USGAはヘッド上部にある2ボールデザインは問題とせず、形状に対して不適合であることをアドバイスしたのです。そしてキャロウェイは、ヘッド後部にもブリッヂをかける(つまり中空型)ことで認可を得るに至ったのです。
しかしこうする事でフィーリングとインパクト音が快適になるだけでなく、重心位置を低く深くできるという性能アップというおまけまでついてきたのです。 USGAとR&Aから認可を受けるための設計変更のアドバイスを受け続けたことが、2ボールパター誕生につながったのです。