スイングスピードの世界標準
1月17日までホアヒンのスプリングフィールドで行なわれていた、アジアンツアーファイナルQTの最終日、村上アルテミオ (フィリピン)がプレーオフの末にG.ファンデルファルク(オランダ)を破り優勝、昨年末に失ったツアー出場権を見事に取り戻しました。村上はアジアンツ アーのプロフィールに、“He is one of the most jovial(陽気な) golfers on Tour.”と紹介されています。
アルテミオ村上は、父親が日本人で母親がフィリピン人のハーフで、2007年にはアジアンツアーの「イスカンダル・ジョホールオープン」で優勝しました。2009年は賞金ランキング70位と苦しみ、上位65位までに与えられるシード権に届かずQTに参加していました。
日本勢では今井克宗(3位タイ)矢野東(11位タイ)久保谷健一(18位タイ)野上貴夫(25位タイ)清田太一郎、内藤寛太郎(28位タイ)が40位以内に入り、2010年のアジアンツアー出場権を獲得しました。
この号がお手元に届く2月4日から7日まで、スワンCCで「アジアンツアー・インターナショナル」が開催されます。出場権を獲得した選手以外にも丸山大 輔、谷原秀人他、10名以上がエントリーリストに載っています。日本のシーズン開幕前の調整に参加する選手も多いようです、間近でプレーが見られるチャン スです、ぜひ応援に行って下さい。
先日のロイヤルトロフィーの練習場で気がついたことがあります。ヨーロッパ選手の重心の低さとスイングスピードの速さです。風の強い欧州各国を転戦するため、低く抑えて打ち出す技術は必要不可欠です。
重心の低さはスペインのパブロ・マーチンが一番でした。同じスペイン出身で「神の子」と騒がれたセルシオ・ガルシアに引けを取らぬ「低い位置」に引き下ろ し、一気にハイスピードで振り抜いていました。パブロ・マーチンのクラブヘッドの動き出しからトップオブスイングまでの経過時間は0.66秒で、インパク トまでの所要時間は0,90と超高速でした。マーチンは17歳の時にヨーロピアンツアー史上初の、アマチュア選手優勝を2007年「Estoril Open de Portugal」で達成し、2010欧州ツアーの初戦「Alfred Dunhill Championship」で復活優勝を果たした23歳です。「神の子」ガルシアもメジャーに手が届かないまま30歳になりました。「スペインの期待の 星」はパブロ・マーチンに取って代わられることになるかもしれません。
世界7位のヘンリック・ステンソンのスイングスピードはさらに早く、クラブヘッドの動き出しからトップオブスイングまでの経過時間は0.60秒で、インパ クトまで0,77秒と驚異の速さでした。世界トップランカーのスピードアップは限界に近づいてきているようです。このことで判るのは、プロゴルファーはア マチュアゴルファーより「遥かに早くスイングしている」ということです。テレビでプロゴルファーの動きに合わせてシャドウスイングをしてみてください、ス イングスピードの違いに驚くと思います。
レッスンで、アマチュアゴルファーのスイングの所要時間を測定して判ったことですが、スイングの所要時間とハンディキャップが正比例しています。ハンディ キャップ3のゴルファーが1,3秒で、ハンディキャップ36のゴルファーは3.5秒もかかっていました。アマチュアゴルファーの所要時間はあまりにも遅す ぎるということです。
ジョン・ノヴォセル氏の著作「ツアーテンポ」には、一秒を30コマに分割できるソフトでプロゴルファーのスイングを分析した結果が数多く掲載されていま す。97に年タイガーが18アンダーのマスターズ最小スコア新記録で優勝した時の、8番アイアンの映像については「タイガーのスイングはテイクバックから インパクトまでの経過時間が1,2秒であり、バックスイングからトップまでの経過が27コマ、そしてインパクトまでが9コマで、つまりその比率は3:1で あった」と記してあります。
「さらにメジャーチャンピオンたちのスイング分析を進めると、ニック・プライスのテイクバックからインパクトまでの経過時間はほんの 0.93秒に過ぎず、マーク・カルカベッキアは1.06秒。また遅めのスイングで有名なベルンハルト・ランガーは0.933秒という驚くべき速さの経過時 間だった。これらの数値は肉眼で見たスイングの常識をまったく覆す証拠となった」と述べていましたが、10年以上経った現在は0,8秒を切るヘンリック・ ステンソンのような選手も現れています。
ラニー・デニスは著書「テンポについて」のなかで「テンポとは、スイングの動作全体の流れをつなぎ、効果的なショットを打つ際に、なくてはならないタイミ ングを創り出すスイングの速さのことである」と述べています。よくスイングはゴルファーの性格が現れると言われますが、テンポとはゴルファーの性格を反映 させたものではなく、クラブを振り上げる動作と振り下ろす動作の間に生じて、すべてのショットに通じるタイミングを生み出すものだと思います。3:1のテ ンポで体をリズミカルに動かすことで普遍的なグットタイミングが身につきます。
一年ぶりに見た、石川のスイングは確かに良くなっていました。ビデオカメラで撮影した映像を比較してみると、去年のアドレスと比べると、ハンドアップに なっていますが、しっかりした背筋と下半身を使い、タイガーのように高く構えている印象でした。ボールの打ち出し角も去年よりかなり低くなり、風の強い日 でも通用するスイングを身につけていました。しかし一番の違いはバックスイングの所要時間でした。今年のトップオブスイングまでの経過時間は0,7秒でし た。去年はターゲットラインにクロスするオーバースイング気味で、トップオブスイングまでに0,8秒かかっていました。同じ0,8秒で、今年はすでに切り 返しに入っており、インパクトまではジャスト1秒でした。去年は1,35秒だったので、インパクトまでの所要時間は0,35秒早くなっていることになりま す。トップオブスイングで0,1秒の差があったということは、去年のスイングは切り返し後も0,15秒遅かったことが判ります。今年は「素早く引き、ゆっ くり切り返し、素早く振りぬく」ことで、上体の開きを抑えたダウンスイングが出来るようになり、クラブコントロール、スピンコントロールの精度が上がった ということでしょう。
2月18日から21日までパタヤのサイアムCCで、米国LPGAの初戦「ホンダPTT・LPGAタイランド」が開催されます。日韓と欧米の人気選手が多数 参加しますので、こちらも時間があれば観戦に行ってはいかがでしょうか。ご自身の「スイング所要時間」を知りたい方は、スタジオにご来店下さい。