全米オープン2015
メジャー制覇の期待がかかる松山の「全米オープン」初出場は2年前の2013年でした。
国内での予選を突破し、プロとして初メジャー、
初の米ツアー出場を果たしたのですが、
本戦では最終日に「67」のチャージを見せ、
10位と大健闘。米ツアー出場権獲得の足がかりを作った大会でした。
アマ時代に2度の「マスターズ」を経験していますが、
PGAツアーメンバーへの第一歩がここから始まったのは間違いありません。
今回はフェデックスランク9位、世界ランク14位と堂々の優勝候補としての参戦でしたが、
優勝予想(パワーランキング)で、ロリー・マキロイ、
ジョーダン・スピースに次いで3位となり、
データの上でも世界から認められる存在となっています。
日本勢は松山に加えて米国最終予選を突破した石川遼、
日本予選から川村昌弘、藤田寛之、薗田峻輔が出場しました。
多くのコースを体験してきた石川は「グリーンの傾斜が強くて、
ピンより10メートルずれたところを狙うようなアイアンショットが求められる。
スピードはそれほど速くないけど、その分傾斜で止まるまでに時間がかかる」と、
攻略法をイメージしていました。
初日を終えて「打つ番手によっても、球筋によってもボールの跳ね方が違う。
頭をフル回転させて、想像力を大事に全英オープンに近い感覚で
やらないといけない」と語っていましたが、
本来フェスキュー芝だけで仕上げるグリーンに、
突然大発生した雑草「ポアナ芝」の混じったグリーンに苦しみ、
日本勢は松山以外、予選を通過できませんでした。
フェスキューは細く長い海岸性気候に理想的な芝で、
スコットランド、アイルランド、イングランド沿岸のリンクスコースに用いられる芝です。
フェスキューは、他の芝に比べ、水や肥料が少なくて済むというだけでなく、
最も粘り気の少ない芝で、コース設計者のロバート・トレント・ジョーンズ・ジュニアは
「球が着地した際、いつ、どこで止まるのかが定かじゃないんだ。
選手たちにピンから遠いところを狙わせて、
最終的にピンの近くで止まるようなショットを強いるコースだ。
歳を重ねると地面を転がすゲームが好きになってきたのだよ」と、
設計の意図を語っていました。
冬から続く降雨は通常5月に終わるため、
開催時には「昨年のパインハーストナンバー2よりは深い緑になると確信している」と、
USGAの担当者は自信のコメントを出していました。
しかし天候不順によるメンテナンスの失敗と、雑草ともいえるポアナ芝の
大量発生が選手たちを苦しめました。
グランドスラマーのゲーリー・プレーヤーは「ゴルフ人生の中で、
一番不愉快なトーナメントだ、グリーンを1ヤードショートしたら、
50ヤードも戻ってしまう。6mのパットを打つのに、
6mも右や左に向いて打たないといけない。これは悲劇だ。
全長7900yd!世界が水不足に苦しんでいるのに、
このコースがどれだけの水を消費するのか?
もし、ハンデ15、16の人が来てプレーをしたら、110を打つだろう。
ここはパブリックコースなんだ。
そんなゴルフ場はハッピーじゃない」と、辛辣なものでした。
H・ステンソンは金曜日午後の硬く締まったコンディションを
「ブロッコリーだらけのグリーンは、ばからしいギリギリのライン」と批評し、
パトリック・リードは「18番は2オンしたけど、
普通のパットをしてカップのそばに止めることは不可能だった。
テレビゲームのようなゴルフをしないといけないなんて、
良い終わり方とは思えない、でも緑じゃないのでカリフラワーだね」と、
H・ステンソンのコメントに補足していました。
ポアナは芝目にくせが強く、フラフラとイメージ通りに転がらないが特徴です。
フェスキューのグリーンに、カリフラワーの様に点在するポアナに弾かれ、
ボールが予想できない跳ね方をすると、
自分の読んだラインが違っていたのか?
打ち方が悪かったのか?と疑いはじめるため、
ボールタッチに違和感が生じ60センチでも外すことになるのです。
砂利採取場の跡地に造成されたコースは、
フェアウェイサイドは高い丘で阻まれ横からの観戦は難しく、
歩きながら選手を追いかけていてもプレー内容を把握することは難しかった様です。
ホール間のインターバルも複雑で、アップダウンがあり、
フェスキュー芝は滑りやすく、砂地は足をとられて歩きにくいという、
ギャラリーが観戦し難い会場設定は明らかに奇をてらいすぎでしたが、
テレビ中継がNBCからFOXに変わったためだと指摘されています。
それまで放映権料は年間30億円といわれていましたが、
FOXとの新契約は2倍に跳ね上がり、
視聴率を上げるためにコース設定をやり過ぎたということです。
高額放映権料の見返りに出場選手とギャラリーを犠牲にしたともいえますが、
偉大なる自然が作り上げたリンクスコースを、
人の力で短期間に造った弊害ともいえるでしょう。
最後までパッティングに苦しみながらも18位に踏ん張った松山は
「最終日に一緒に回ったアダムと遜色ないショットを打てていたと思うけど、
グリーン周り、パッティングですごく差を感じた。
まあその辺が、上に行く人と、下で終わる人との差かなと思った。
4日間を通して見ると、ダボがいくつもあったのがもったいなかった。
そうしたことを反省材料にして、次につなげていくために、
しっかりと練習したいと思います」と、未知なる設定での戦いを糧に、
気持ちは次のメジャー「全英オープン」に向かっている様です。
最終日同組のB・グレースとJ・スピースが、
15番を終え5アンダーで並ぶ優勝争いを繰り広げました。
しかし16番のティショットを右にOBとしてしまったB・グレースは
ダブルボギーと後退。
ここでバーディを奪ったJ・スピースが6アンダーと3打のリードと抜け出し、
優勝が決まったかに思いましたが、メジャーは簡単には勝てません。
17番パー3のティショットで今度はJ・スピースが大きく右のラフに打ち込み、
乗せたものの3パットのダブルボギーとまたまた混戦に。
二人とも優勝を意識した瞬間に、切り返しが早く
クラブがついてこないインパクトでした。
パターが入らず苦しんでいた最終組のD・ジョンソンが
17番で起死回生のバーディを奪い、
初日135位の出遅れから追い上げたL・ウーストハイゼンと、
この時点で通算4アンダーに3人が並ぶ混戦となったのです。
18番パー5の勝負は、ティショットを左サイドのバンカーを避け、
セカンドでちょうど届くポジションを狙い撃ちしたJ・スピースが、
3Wで右からの傾斜を使い2オンに成功。
イーグルパットこそ外しましたが、バーディを奪い5アンダーと抜け出し、
D・ジョンソンを待つことに。
D・ジョンソンのティショットはそのバンカーの右サイドを
キャリーで打ち抜くビッグドライブ。
604ヤードのパー5をアイアンでピン左に2オンに成功しますが、
左からの傾斜は使えずに、段の上で止まってしまいます。
さわるだけの4m弱のイーグルパットはカップをオーバーし、
最終日に外し続けた「悪いイメージ」のままに打ったように見えた
返しのバーディパットを外した瞬間、J・スピースの優勝が決まりました。
次戦のメジャー「全英オープン」はJ・スピースの
年間グランドスラムが話題になりそうですが、
オーストラリア勢と南ア勢の巻き返しがありそうです。