10月15日2019年
「日本女子プロ選手権」は、
渋野日向子が「海外メジャー優勝」後、
初となる地元関西の試合ということもあり、
ギャラリー動員数は今季最多の35719人でした。
会場のチェリーヒルズゴルフクラブや、
ギャラリー駐車場付近には車があふれ
「シブコ渋滞」と呼ばれる現象が起きました。
コース内ではコース整理のアルバイトが
毎ホールのように「写真撮影をやめてください!」と
注意喚起をしても、スマホのカメラの
シャッター音が響き、渋野や同伴競技者の
ティショットやパッティングの時まで
「音」が鳴るという酷い状況でした。
「マナーを知らなかった」ではすまされない
ギャラリーが多く、注意を受けて
一度スマホを下げても、
再度スマホを構える人ばかりで、
ギャラリーの中には「スマホ越しに見ているだけ」という、
謎の言い訳をする人もいたそうです。
中には「一枚くらいええやろ」と、
開き直る人もいたということですが、
問題なのは写真を撮る際に発生するシャッター音なのです。
PGAツアーではスマホなどで撮影することを
許可する事もありますが、
設定を音が鳴らない様に徹底していますし、
ツアーを撮影するカメラマンは、
アドレスからインパクトまでは
「音」の出るカメラでの撮影が禁止されています。
どうして、ここまでシャッター音に
過敏になるのかというと
「音」によってミスショットが生まれる以上に、
選手生命に関わる危険性があるからなのです。
宮里優作が自身のSNSで
「トーナメントの時に切り返しでシャッターを押されて、
その音に反応してしまい、腰痛を再発させた事がある。
それから凄く敏感になってしまっている。
今日のようにずーっとスマホを向けられたまま
アドレスするのはかなり恐怖感があります。
でも克服しなくては」と、
賞金王を獲得した年にコメントしています。
ゴルフは野球やサッカーの試合のように
常に応援が鳴り響く競技ではありません。
予期せぬ「音」が鳴ることが、
選手にとってはとても大きな問題なのです。
女子ツアーの華やかさに比べ、
男子ツアーの優勝争いの緊張感は、
何故かとても重苦しく感じられます。
その雰囲気を「選手にオーラがある」として
認めていた時代がありましたが、昭和の時代の話です。
その重苦しさを変えるためか、
最近の取り組みとして面白いと思ったのは
「RIZAP ・KBCオーガスタ」で企画された、
コース中に音楽が流れるという、
明るい雰囲気のトーナメントでした。
常に音楽が流れていると
「細かい音が気にならなくていい」という
選手までいたということです。
プロゴルファーは、静かなコースでなければ
プレーに集中できないのではなく、
鳴るはずのない時に
「音」が鳴ることが問題だということが
明らかになりました。
マナーを守って応援している人が
多数いることは間違いありません。
ただ最近は、守れない人があまりにも目立っています。
ほとんどの携帯電話にカメラが付き、
スマートフォンが普及し、
フェイスブックやインスタグラムをはじめとする
SNSが広まっている現状では、
いつもと同じ様に写真を撮りたくなる気持ちも分かります。
思い出として残したいことも理解できます。
しかし予期せぬタイミングで発せられた
シャッター音のせいでミスが起きても、
選手はプレーをやり直すことはできません。
1打で1000万円以上という賞金額どころか、
人生が変わる可能性もあるのが、プロゴルフの世界です。
大げさではなく「一枚くらいええやろ」の気持ちが、
選手の一生を狂わせてしまうこともあるのです。
写真を撮りたいギャラリーのための対応が、
最近のツアーの課題の様です。
女子ツアーは、大会によって
チャリティフォトを実施してきました。
1000円以上のチャリティすることで
好きな選手と写真撮影ができるのですが、
当然人気選手は抽選になります。
渋野の活躍以来、対応を苦慮している様ですが、
男子ツアーで行われている、
一部エリアに限って写真撮影が可能な
『フォトエリア』は、女子ツアーにはありません。
ツアー観戦に行った思い出を残す方法を、
男女ともにもっと考えるべきだと思います。
PGAツアー
「ウェイストマネジメント・フェニックスオープン」の
名物といえば、162ヤードのパー3の16番です。
ホールの周囲を、ギャラリースタンドが360度取り囲む様は、
まるでボールパークと見紛うばかりです。
「スイート16」とも呼ばれるこの1ホールに、
1日あたり15,000人から20,000人が来場します。
ギャラリースタンド上部には
「スカイボックス」と呼ばれる
予約スペースが設けられており、
その数は全部で200ブースもあります。
1区画当たりの平均価格は46,000ドル(約470万円)で、
これだけで9.4億円を売り上げる計算になります。
大音量のダンスミュージックをBGMに、
チアリーディングが行われ、
来場したセレブたちのショットパフォーマンスや、
国歌斉唱、それに合わせて上空には
編隊を組んだ飛行機が通過するなど、
これぞアメリカと言わんばかりの
エンターテイメントに満ちています。
選手達はワンオンしないと「大ブーイング」を
浴びる事になりますが、
酒を飲んで酔った観衆をいかに味方に引き込めるか?
選手達も用意したプレセントを、
ギャラリースタンドに投げ入れる
パフォーマンスを楽しみにしています。
今年の「パナソニック・オープン」では、
日本でも「ザ・ギャラリーホール」が開催されました。
パー3ホールのグリーン周りをスタンドで囲み、
選手とギャラリーの距離を近くして盛り上げる試みでした。
選手がティーグラウンドに現れると、
タケ・小山プロがマイクパフォーマンスで紹介し、
選手がバーディーを獲ると、その都度勝手な選考基準で、
ギャラリーにパナソニックのタオルを
プレゼントするという企画でした。
ネットでも中継されていましたが、
青木会長もギャラリースタンドからマイクを握り、
選手に挨拶を強制するなど
ギャラリーの皆さんも大変喜んでいましたが、
選手からのプレゼント企画もやって欲しいと
思うほどの盛り上がりでした。
副会長の石川遼は「ゴルフトーナメントに
遊びに来てもらうというのが大事」と、
改革に取り組んでいますが、ギャラリー増、
ゴルファー増を目指し、努力している石川の基本理念と、
この取り組みは合致しています。
プレーの妨げになるような行為に関しては、
当然多くの注意喚起がされています。
しかし「頑張ってください!」と声をかけて、
選手がニコッと笑顔を返してくれればうれしいものです。
それが「これから応援しよう」というきっかけになり
「また試合を観に行こう」となるかもしれないのです。
選手は声援が力になります。
渋野がメジャー制覇した時も、試合が進むにつれ、
異国のギャラリーが渋野の魅力を知り、
ついには会場全体を味方につけてしまったのです。
最終ホールでは大歓声と拍手を独り占めしましたが、
あそこまで盛り上げられるのは渋野の才能です。
選手は応援される方がいいに決まっています。
最終日、最終組の優勝争いという、
極度にプレッシャーがかかる中で、
いかんなく実力を発揮し、
しかもプレーの合間に笑顔を絶やさずに、
ホール間を移動する時は大勢の観客と
ハイタッチも交わす明るい人柄の渋野に、
多くのギャラリーが虜になったのです。
ジュニアには、渋野のプレー振りや、
石川のゴルフに対する真摯な取り組みを
参考にして欲しいと思います。
プレーにしてもマナーにしても、
プロゴルファーのお手本といえます。
10月1日2019年
20歳の畑岡奈沙が、国内メジャー3勝目を
最年少で達成しました。
2打差の単独首位からのスタートで
1イーグル5バーディ、2ボギーの「67」でラウンドし、
2位に8打差をつける通算18アンダーと、
大会最少ストローク記録を2打更新しました。
海外メジャー「AIG全英女子オープン」を制した、
同学年の渋野日向子や、海外メジャー7勝で
元世界ランク1位のパク・インビが出場した今大会。
ただひとり4日間60台を並べ、
最後は誰も寄せ付けない圧勝でした。
黄金世代の吉本ひかる、
メジャーチャンピオンのフォン・シャンシャンとの
スタートでしたが、2mにつけたスタートの1番、
6Iで2.5mに寄せた2番と2連続バーディと、
序盤に独走態勢を築くと
「20アンダーを目指す。
スコアだけを目標にしている方が、
私は集中できるから」と、
初日からの目標に向けさらに加速します。
後半15番では、70ydの第2打を直接入れて
イーグルを奪い、笑顔で両手を突き上げました。
「ドキドキが落ち着いたのは15番。
最後も池が絡むので気は抜けなかった。
日本一を決める大会といっても過言じゃない。
たくさん良い選手がいる中で勝てたのはうれしい」と、
インタビューで答えていましたが、
畑岡は3月に開催された
「キア・クラシック」でLPGAツアー通算3勝目を
挙げた流れで、樋口久子以来42年ぶりとなる
「海外メジャー制覇」の期待を一身に背負っていたのです。
しかしそれ以来勝利に見放され、
形勢が一気に変わることになりました。
初の海外挑戦となった「全英」で優勝した渋野が、
まばゆい輝きを放つことになりました。
畑岡は米国での苦悩が脳裏に浮かび
「今年はなぜか海外メジャーだけ、
うまく調子を合わせられなかった。
前の試合でうまくいっても、
メジャーに持っていけないというのがあった。
意識しすぎたと思う」と、
結果が出せなかった「海外メジャー」を振り返っています。
渋野の優勝を素直に喜びたくても、
ゴルフプレーヤーとして常にメジャーのために
練習をしてきたはずで、同年代に先を越された
悔しさは大きかったはずです。
しかし畑岡は国内ツアーでの生涯獲得賞金額1億円に
17試合目で到達し、
宮里藍の27試合目を大幅に更新しました。
20歳245日でのメジャー3勝目は
諸見里しのぶが持つ23歳59日の記録を上回りましたが
「記録は意識していなかった。
ただ、20アンダーに届かなかった。
そこはちょっと悔しいです」と笑みを浮かべ
「海外メジャー制覇」の想いを、
さらに強くしている様でした。
次戦は優勝した17年以来となる
国内ツアー「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン」に
出場しますが「先のことを考えすぎずに
1試合1試合やっていきたい。
今やっていることは先につながっていく」と、
記録的な国内メジャー制覇から、
来年の海外メジャー、
そして「東京五輪・金メダル」という
「夢」を叶えるための再スタートを、
日本から始めるということです。
畑岡は2015年から
「IMGA世界ジュニアゴルフ選手権」を2連覇
していますが、ゴルフファンを驚かせたのは
16年の国内メジャー「日本女子オープン」でした。
4打差を追う最終日に「68」をマークし
「国内メジャー史上初のアマチュア優勝」を飾ったのです。
17歳263日でのメジャー優勝は、
平瀬真由美の20歳27日
(1989年LPGAレディーボーデンカップ)を抜く
最年少記録です。
今回の2位に8打差をつけるという圧勝劇は、
セッティングを担当した岡本綾子プロの
意図を反映した内容でした。
開幕前に岡本プロは「ラフは想定より長くなったけど、
ファアウェイのコンディションが素晴らしい。
4日間を通してラフに入れない技術を持っている
選手は少ないと思います。一方でグリーンは軟らかい。
かといって、ピンを端に振るようなことは考えていません。
ショットをすれば良いラインに止まるように、
戦略的なプレーができるセッティングにする」と
語っていました。
畑岡の18アンダーに続いたのは、大西葵と
フォン・シャンシャンの10アンダーでしたが
「1日4、5アンダーを出すのはひと握り。
どれくらいの割合の選手が、
4日間そのままの数字を出すかは想定していませんが、
15アンダーを出せば独走かなと考えています」という、
岡本プロの見通しは的確でした。
「全英女子オープン」を制覇した渋野日向子の
優勝スコアは通算18アンダーでした。
スコアの伸ばし合いについていけないと
勝てないのが世界の流れです。
畑岡は最後まで目標を20アンダーに設定していましたが、
渋野の18アンダーを意識していた様にも思います。
照準を合わせていたはずの
「全英オープン」で予選落ち後、
一時帰国した畑岡は、栖原弘和トレーナーとともに
心身をチェックし、筋力低下と、
頭の中が整理しきれていないという
課題を把握したといいます。
直後から週2回のトレーニングを欠かさずに、
今大会の期間中も火曜と木曜に近所の
24時間営業のジムに通ったそうです。
畑岡の調子のバロメーターはスイング時の
左足つま先の向きということです。
良い時はやや外側に向くのですが、
背中が硬くなり上半身が旋回しにくくなると、
骨盤を回そうとして左足つま先が内側へ向くことで、
アドレス時のライン取りもずれることになります。
最終日に畑岡が背中を気にするそぶりを見せていたのは、
大会3日目にその傾向を感じとっていたからでしょう。
脳が疲れると末梢神経の情報感度が低下して、
身体の繊細さが失われるといいます。
畑岡は帰国後に長年飼っているトイプードルのステラと、
今年5月に生まれたアポロと散歩することで
リフレッシュできたということです。
高校1年でアマチュア優勝を成し遂げた勝みなみを、
渋野は当時「次元が違う」と眺めていたそうです。
今回の畑岡のプレーをレベルが違うと評した河本結や、
最終組で「80」を打って涙をこぼした吉本ひかる、
予選落ちをした原英莉花も「あの子にできるなら、
いつか私にもできる」と思っているはずです。
新記録を樹立した畑岡のプレーは、
黄金世代に新たな水準を設定したともいえます。
畑岡は日米通算7勝となりましたが、
海外メジャーはプレーオフで惜敗した
2018年「全米女子プロ」の2位が最高位です。
国内メジャー3勝目を挙げた畑岡は、
8月の海外メジャー「AIG全英女子オープン」を制した
同学年の渋野について問われ
「日向子ちゃんが全英に勝ってすごく悔しかった。
自分も頑張ろうと思った」と語っています。
畑岡は1999年1月、渋野は98年11月生まれの同学年。
二人は女子プロゴルフのいわゆる
「黄金世代」を両輪としてけん引する立場になりました。
この勝利で畑岡の世界ランキングは、
2ランク上がり7位になりました。
渋野は14位と現状では「東京オリンピック」代表は
この二人です。
メダルを獲得するには五輪コーチの仕事が重要です。
技術的な部分は各々コーチがいるので
アドバイスは不要のはずです。
必要なサポートとは、
加熱しすぎているメディアから
彼女達を守るための対策や、
ギャラリーとの距離感をどうしたらいいのかを
考えて欲しいですね。
五輪コーチになった服部プロは留学経験もあり
英語も堪能で、自身もLPGAツアーに参戦経験もあります。
国内のサポートも大事ですが、
畑岡と渋野が来年の海外メジャーに参戦する際に、
ストレス無く試合に集中できるようなサポートを
スタートして欲しいと思います。
9月15日 2019年
2017年8月「WGCブリヂストン招待」での
PGAツアー5勝目を最後に、
松山英樹はタイトルに恵まれないまま2年が経過しています。
しかしポイントランク上位30人で争う
最終戦「ツアー選手権」には6年連続で進出ました。
2018-19年シーズンは24試合に出場しましたが、
昨夏から続いた25試合連続の予選通過記録は
7月「全英オープン」でストップしています。
しかし決勝ラウンドを戦えなかったのは
わずか2試合という内容です。
もともと松山は予選落ちが少なく、
昨年も3回だけと高い安定感を保っていますが
「ぜんぜん違います。今年の方が良かったと思う」と、
自身が感じるレベルの違いを語りました。
松山の言葉を裏付けるのは平均ストロークで
「69.841」と2年ぶりに60台を記録し、
ツアー全体で12位でした。
好スコアの支えになったグリーンに到達するまでの指標
「ストローク・ゲインド・ティ・トゥ・グリーン」が
全体3位の「+1.487」で、
ツアー参戦以後ベストの数値を残しています。
パーオン率の20位(69.38%)は、3勝を挙げた
2016-17年に次ぐ数字でした。
パーオンを逃した時にボギー以上を
回避するスクランブリング率も12位(64.12%)と
高水準の数値でした。
松山が6勝目への兆しを見せたのが、
実力者が集う「プレーオフシリーズ」でした。
第2戦「BMW選手権」そして「ツアー選手権」では
直近8ラウンドのうち3ラウンドで
フィールドのベストスコアをマークし
「ここ2試合でつかんだものある」と語っています。
間もなく始まる19-20年シーズンで勝つために
「あとはティショットの精度とパッティング」と、
明確になった課題に取り組むということです。
昨年の松山は「優勝争いをした」という
実感がまるでなかったということでしたが、
今年の「ザ・メモリアルトーナメント」で
首位に4打差3位で迎える最終日前夜に、
緊張感から来る体調の異変を感じ取ったといいます。
「寝る前から体温が高かった。
部屋の温度はいつも一緒なのに『ちょっと暑いな』と。
起きてからも同じで、久々にこういうのがあるのかなと」
優勝争いからくるプレッシャーを感じたといます。
プレーオフ第2戦「BMW選手権」では、
単独首位で迎えた3日目に最終組でのラウンドで
後退しましたが「2サムで優勝争いをしている時の
プレーのスピードに長らく慣れてなかった。
そういうところでのプレーを
もっと増やさないといけない」と、
いつものようなプレーが出来なかったことを
反省していました。
松山の最終ラウンドの平均スコアは「70.0」で
60位にとどまりました。
直近2年は18年「68.38(2位)」、
17年「68.78(4位)」と、
最終日に結果を出しており、
最終日の精度の高さを取り戻すことが勝利に繋がります。
スイングに関して松山は
「昔とはまたぜんぜん違うスイング」を追い求めていますが、
最後の2試合で松山は、ポロシャツのボタンを2つとめずに、
首もとを大きく開けてプレーしていました。
「見た目を考えると締めておきたいんですけどね。
昔良かった時は締めてなかったんですよ。
ゲンを担ぐわけじゃないんだけど、
基本的には開いている方が僕はいいみたい。
勝手な思い込みかもしれない。
でも、気持ちがやっぱり違うんだろうなって」と、
勝利のために感じたことは取り入れて、
さらにはメジャータイトルへと飛躍してもらいたいものです。
石川遼が、3シーズンぶりの優勝を飾った
「日本プロ選手権」から1カ月半。
「セガ・サミーカップ」では4打差をつける
完勝を挙げました。2大会連続でタイトルを手にし、
最終組で大ギャラリーの歓声に包まれる姿は、
常勝を誇った頃を彷彿させるものでした。
賞金ランキングでも8年ぶりにトップに立ち、
再びツアーの中心に戻ってきた事を
確信する勝利となりました。
以前の自身と向き合い「変わってきたところ」と話すのが、
アイアンショットの精度の向上でした。
「安定してプレーできるようになった。
若いころはパー3が苦手だったけれど、
アイアンの精度が2009年から変わってきた。
今が人生で一番いい状態にある」と、
パー3での内容を比較していますが、
データを見ると2009年(22試合)の
パー3でのバーディ率は0.14で、
年間の累計スコアは通算15オーバー。
対して今季(6試合)はツアートップの0.25で、
累計スコアは通算10アンダーを記録しています。
PGAツアー参戦時には、パワーで大きく劣る
海外選手との差を埋めるため、
ドライバーの飛距離を追い求め不調に陥りました。
そこで最近はアイアンショットの精度にこだわり、
スピンコントロールへの意識を強め
練習に取り組みましたが、
その成果を実感する1打も多くなっています。
すべては2017年を最後に撤退した
PGAツアーに再挑戦するため、
さらに「東京五輪」をも見据えた取り組みです。
負荷をかけた筋力トレーニングにより、
繰り返し起こった腰痛の不安も消えたということです。
石川は「2009年以降、海外に出ていなければ
今の自分の技術はなかったと思う。
ドライバーだけはずっと良かったかもしれないけれど、
一辺倒の攻めだけになっていたかもしれない。
気持ち的にも身体的にも、根本的に考えていることは
09年とはぜんぜん違う」と、まだ6試合を終えた段階ながら、
今季のバーディ率は2009年を上回る4.90をマーク。
海外での苦しい経験を経て、
10年前とは異なるプレースタイルが確立されています。
「全英女子オープン」を制し、
帰国後も体調に不安を抱えた状態で13位、3位、5位と
成績を残している渋野日向子ですが、
今年の平均パット数は1,75でトップです。
平均バーディ数やパーブレーク率もトップですが、
好調のパッティングが渋野のゴルフを支えています。
コーチの青木氏はまず、
渋野のパターをマレット型からピン型に変えさせてました。
渋野はフォローでフェースが
開きながら外に抜けるクセがあったため、
ヘッドの慣性モーメントが大きく操作しづらい
マレット型から操作性の高いピン型に変えさせたのです。
意識的にフェースを閉じたフォローをすることで
イントゥインのストロークとなり、
球の回転と方向性が飛躍的によくなりました。
そしてもう一つ大きな効果を発揮したのが
2種類の「ドリル」です。
スタート前に7m以上の3か所からカップを中心とした
1mの円の中に3球ずつ入れる
ロングパットの練習をするドリルです。
カップに入れることを目的とせず、
その日の距離感の基準を作るための練習で、
基本的にはできるだけフラットなストレートラインを
7、12、15mから打つのですが、
機械的にならないために、
距離やライなど毎日少しずつ変えるそうです。
フィーリングを養うことが目的のドリルで、
ホールアウト後にはこの練習はやらないということです。
ホールアウト後に練習するドリルは、
カップから1mの距離にティを立て1.5m、
3mといった具合にカップに対して
徐々に距離を伸ばしながら円を描くように
9本のティを刺します。
7本決まれば終わり。
仮に3本目を外せば、その瞬間、
ゼロからやり直すというドリルです。
距離も一打毎に変わり、
さらに様々な傾斜からのパットとなり、
狙ったところに打てるようになることが目的です。
9分の7以上を1パットで決めることを義務づけることで、
プレッシャーに強くなり、
さらに9か所の傾斜の違ったラインから打つために
「ストロークより出球」を意識することになり、
プレッシャーの中でも狙ったところに
打てるようになるということです。
読者の皆さんも試してみる価値はありそうですね。
9月1日2019年
「AIG全英女子オープン」で
日本人42年ぶりのメジャー制覇を遂げた渋野日向子は
帰国直後の「北海道MEIJIカップ」に参戦しました。
日本中のゴルフファンが注目の中、
最終日のプレーは5バーディ、
3ボギー1ダブルボギーの「72」とし、
通算4アンダーの13位で終え、
「全英制覇」直後の凱旋優勝とはなりませんでした。
4番でダブルボギーを喫するなど前半で2つ落とします。
得意の後半は12番のパー5で3打目を2mにつけて
バーディを奪いますが、16番でグリーン手前ラフからの
アプローチを2.5mショートさせてボギーとします。
17番のパー3はピン右1mにつけバーディを決めるなど
終盤の強さは示し、18番パー5でも2mを沈めて、
サンデーバックナインの上がり2ホールを
連続バーディでホールアウトしました。
大会の最終日は、昨年比2725人増となる
7631人のギャラリーが来場。
3日間トータルで1万6407人となり、
会場を2006年から札幌国際CCに移してからの
最多ギャラリー数を更新と「シブノフィーバー」が
数字として現れました。
渋野が通算4アンダーの13位で終えたほか、
北海道出身の小祝さくらが優勝を争い、
地元で健闘した事も多くのギャラリーが
会場に足を運ぶことになったのでしょう。
疲労と戦いながらも上位で3日間を完走した渋野は
「全英で優勝してから、こんなにたくさんの方が
来てくれるとは思っていなかった。
みなさんの応援は本当に力になるし、
今までとは違うムードだった。
この中でプレーするのは本当に楽しいことだと
改めて思った」と、初めての海外からの転戦で、
最悪の体調の中でも「シンデレラスマイル」を
絶やすことはありませんでした。
渋野は更なる注目を集め、休むことなく出場した
「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」でも、
優勝争いに加わります。
1打差を追って最終日をスタートした渋野は、
前半に3つ伸ばし、首位を捕らえて
サンデーバックナインへ。
14番で1.5m、15番で7mのバーディパットを決めますが、
首位タイで迎えた最終18番を3パットボギーとして
プレーオフに参加できず3位タイと惜敗しました。
2週前「AIG全英女子オープン」を制してから
2戦目での国内優勝とはなりませんでしたが
大きな注目の中、十分に期待に応えたといえるでしょう。
プレーオフは穴井詩がイ・ミニョンを
1ホール目で振り切り優勝しましたが、
渋野は「何が何だか、わからなかった。
最後にぜんぶ台無しにした」と、
溢れ出る悔しさを必死に抑えている様でした。
「シブノフィーバー」に沸く軽井沢で、
渋野はそんなフィナーレを予感させる舞台を整えました。
1打差2位で出た最終組からジワジワと追い上げ、
首位に並んでハーフターン。
18番のティーグラウンドでスコアボードで
順位を確認しますが
「セカンドまでは緊張もなかったし良かった」と、
張り詰める空気の中でピン右5mにパーオン成功。
ウィニングパットを見事に決め切った「全英」を、
彷彿とさせるシナリオを期待する大勢のギャラリーが、
グリーンを取り囲むことになりました。
入れば優勝のパットを前に
「手が震えていた。今までの優勝争いで、
一番手が動かなかった、オーバーだけはさせるつもりで」と
強気に打ちましたが、ボールはカップ横を
すり抜けて2mオーバー。仕切り直した返しも、
集中が途切れたように左に外れ、
観客のため息だけが響きました。
「返しも手はあんまり動かなかったですね。
最後は、カップにかすりもしなかった。
本当に情けない」と振り返っていますが、
明らかな下りのファーストパットは、
優勝を決めた「全英オープン」の最終ホールの
様にはいきませんでした。
しかし帰国2連戦で、ファンや異常ともいえる
マスコミに対するの対応もあり、
疲労もピークの中での優勝争いです。
プレーオフの選択肢はなかったのかもしれません。
全英の時に「プレーオフはいやだから」と、
攻めきったゴルフが、
これからも渋野の信条なのかもしれません。
人前では悔しさを押し殺し、気丈に振舞っていましたが、
クラブハウスに戻ると1人隠れ、涙をぬぐったといいます。
「頑張って笑おうとしましたけど。
ちょっと涙が出ちゃいましたね。
でも、人に見せるものでもないですし」と、
記者会見場では「最後の緊張は何で、ですかね。
自分でも理由はわからない。
プレッシャーがあったわけではない。
でも、ここ最近では、一番悔しい」と吐露しつつ
「最後のボギーの仕方がダメですね。情けねー」と、
最後は周囲を笑わせていました。
最終日のパーオン率は50%ながら、
前半アウトは9パット(計23パット)に収めてノーボギー。
苦しい状況でも、急成長中のパットで必死にスコアを作り、
賞金総額は目標とする1億円に迫る8479万円に積み上げました。
「経験だけで、終わらせちゃいけない。
ひたすら練習するしかない。
悔しさはきっと次につながる」と、気丈に答えていますが、
地元の岡山県で4週ぶりのオフを過ごし、
「ニトリレディス」に備えるということです。
「家でもゆっくりしたい。県外にいって、
外の空気を吸うのもいい。ソフトボールもしたい。
とりあえず、ゴルフのことを忘れたい」と、
多くの人に笑顔を届けながら、必死に走り続けた3週間。
また1つ強くなるための経験を持ち帰り、
体をほんの少しだけ休ませる時間を
大切にして欲しいですが、
ワイドショーに追い回されるのは間違いありません。
日本の女子ツアーは男子ツアーと違い、
賞金面において世界と極端に差があるとはいえません。
米LPGAツアーは、33試合の開催、
賞金総額は7055万ドル(77億円)です。
1試合平均で約2億3500万円ですが、
日本女子ツアーは39試合、39億4500万円ということで、
1試合平均にすると約1億100万円で、
米ツアーの47%となります。
男子の場合、米ツア―の賞金総額366億円に対して、
日本は43億円と圧倒的な差があります。
私が韓国でプロゴルファーの育成をしていた頃の
韓国の賞金額は、男女とも日本の10分の1程度の賞金額でした。
男子は徴兵制があり海外に出ることは難しい時代でしたが、
申ジエの様に日本をステップにアメリカを目指したのです。
現在の日本女子ツアーは、日本にいながら
世界と切磋琢磨が出来ないというわけではありません、
また過酷な移動にあえて身を置くのが
プラスかどうかも分かりません。
渋野は言葉も通じない見知らぬ土地から土地へと
渡り歩くツアー生活を耐え忍ぶより、
日本での戦いを選択すると公表しています。
男子のように、米ツアーと日本の賞金に
10倍近い格差が生じていて、
世界レベルの選手と日本でラウンドする機会が
滅多なことではあり得ないような状況であれば、
世界に通用する選手になるためには
米ツアー入りを目指すべでしょう。
日本女子ツアーは、世界レベルの選手を
多々輩出してきました。
それに続けとばかりに有望なゴルファーが
次々と現れています。
この20年で30ものメジャー優勝を獲得し、
ゴルフ大国となった韓国からも有望な若手が参戦し、
申ジエのような世界レベルの選手とも
戦えるフィールドなのです。
渋野が42年間のジンクスを打ち破ったことで、
堰を切ったように「日本人メジャー優勝者」が
現れることに期待しましょう。